【鬼滅の刃小説】童磨恋蓮(1)
2020/1/27(月)現在、
コミックス派のわたくし、鬼滅の刃は18巻まで読了しております。
とはいえ、Twitterからあふれ出る本誌派の皆様の叫びはチョイチョイ聞きかじっているので、なんとなく18巻以降の流れも分かっている者です。
その上で、
敵方の十二鬼月、上弦の弍である童磨(どうま)に非常に感情移入してしまい、童磨漫画を描く!と各所に(主に友人に)宣言していました。
が、
いざネームを切ろうと思うと、まだぼんやりしたストーリーしか考えていない部分も多く、ここはまず文章で起こしていった方が自分に合っている、と気づきました。
これから少しずつになるかもしれませんが、本ブログにて書き連ねていこうと思います。
ゆくゆくは漫画化してpixivにもアップ予定。例によって下手な絵、下手な文章ではありますが、自分の趣味にひた走ろうと思います。
前述したように、コミックス18巻までしか読んでおらず、童磨の最期はうっすらしか知らない(たぶん19巻に掲載される)ので、本誌の内容と異なる表現があるかもしれません。
その他独自解釈で妄想しまくっているので、なんでも許せる方のみお進みくださいまし。
ネタバレも注意です!
この世はまこと千辛万苦
右に病苦で床に伏し
左に貧苦で食うにも困る
金があっても争いばかり
この世はまこと絶痛絶苦
澆季溷濁(ぎょうきこんだく)の末世也けり
唄っていると、横から「ふふふ」という笑い声が聞こえてきた。
この陰鬱な唄を聞いて楽しげに笑う人間は今まで会ったこともなく、童磨は思わずに口をつぐんで彼女を見た。
「あら、ごめんなさい教祖さま…」
その娘は今しがた笑った口を手で抑え、申し訳なさそうに頭を垂れる。
「いや、面白かったかい?ひどい唄だものねぇ」
童磨も朗らかな笑みを浮かべて同意した。
この唄は、彼が教祖として束ねる万世極楽教の布教を目的に、童磨の父が作った唄だった。
幼少の頃、民衆の前で高らかにこの唄を唄う両親の姿には、子供ながらにも呆れたものだ。品もなく、趣もなく、滑稽なほど酷い唄に、聴衆はみな顔を歪めて涙を流し、「その通りだ」とうなだれる。そして、「だから救ってください」と哀願する彼らの瞳には、祀り上げられた幼い童磨の姿が映っていた。
童磨はてっきり自分と同じように、このチンケな唄を嘲笑したのだと思って娘を見たが、彼女は困ったように首を振った。
「違うんです。」
そして形の良い唇の端をくいと上げて綺麗に笑うのだ。
「こんなに哀しい唄なのに、教祖様があんまり愉しげに唄うので、世の中はきっと良くなるのだろうと嬉しく思ったんです」
そう言う娘の顔は、嘘偽りのない美しい笑顔だった。
童磨はそんな彼女の様子に「へえー」と屈託のない調子で言葉を返す。童磨は朗らかな笑みを浮かべていた。心底卑しいと思っている唄を唄うときすらも、その表情は変わらない。
「そんな風に解釈する人を初めて見たよ。やっぱり、君は変わっているなぁ」
虹色に輝く瞳で彼女をまじまじと見つめると、娘は少し恥ずかしそうに「そうですか?」と首を傾げた。
「ねえ、じゃあ今度は君が唄ってみてよ、今の唄」
にっこりと微笑んで娘に頼むと、彼女は、すっと姿勢を正して唄い出した。
この世はまこと千辛万苦
右に病苦で床に伏し
左に貧苦で食うにも困る
金があっても争いばかり
この世はまこと絶痛絶苦
澆季溷濁(ぎょうきこんだく)の末世也けり
思った通り、彼女の透き通った歌声は、色と欲と金にまみれた卑しい唄を、汚れのない美しい旋律に変えてしまうのだった。
長年侮蔑を込めて聞いていたこの唄も、彼女が唄えば悪くない。童磨は変わらぬ笑顔で耳を澄まし、ずっと聞き続けていたのだった。
彼女がここへやってきたとき、それはそれは酷い傷を負っていた。特に顔周りは殴られた跡で腫れ上がり、髪も千切られ、服には自身の血が点々と着いている有様。
一方で、大事そうに抱えている赤子には傷一つない。おそらく、身を呈して守ったのだろう。
実は、こういった娘が駆け込んでくることは多い。
夫の暴力、貧乏に耐えかねて逃げ出してきた若妻、幼子を連れた身寄りのない娘、三行半を突きつけられた妻たち。縁切り寺としての役割を持つ童磨の寺院には、こういった女たちをはじめ、訳あって自らの住まいや共同体から身を追われた者たちを匿う組織としても機能していた。
新興宗教の寺院と謳ってはいるものの、田畑を含めた広大な土地を有し、信者たちは小作の仕事だけでなく、日常に必要なあらゆる仕事もこなしている。簡単に言うなれば閉塞的な村であり、同じ宗教を信仰する小規模な共同体。これが、童磨が束ねる万世極楽教の実態だった。
彼女は悲惨な容態でここへ逃げ込んでくるなり昏倒し、三日三晩、意識を失っていた。暴力などで大怪我を負って逃げ込んでくる者の中には助からない者もいるが、この娘は奇跡的に命を取り留め、「琴葉」と名乗った。
琴葉は、負傷が原因で片目を失明していたものの、日常のことをなんなくこなせるほど元気になった。抱えていた赤子も無事で、あやしながら敷地内を散歩している姿が印象に残っている。
特筆すべきは、その美しさだ。
傷が治った琴葉の顔は、人が見惚れるほど美しかった。
万世極楽教は、来る者拒まず、去る者追わずを信条にしているため、そこに住まう信者は増えたり減ったりするのだが、特に女性は手厚く保護された。江戸時代より、文明開化で目まぐるしく世の中が変わっていく中、女性はほとんど財産権もなく、処遇は昔から大差ない。夫や家族から見放された者は生きていくことすら難しい場合がほとんどで、童磨はそれを非常に憐れんだ。
「いつまでだって、ここにいていいんだよ。もちろん、良い旦那さんを見つけて出ていく娘も多いんだけどね」
そんな風に優しく声をかけると、娘たちは大概、涙を流して感謝の言葉を口にした。
もっとも、若い娘は本当に、行く先を見つければ姿を消す者も多かった。若く美しいなら、嫁の貰い手も多いだろう。古株の信者たちも、琴葉もすぐにいなくなるだろうと、内心思っていたのだった。
続く。
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